名前 | 糟糠の妻 |
読み方 | そうこうのつま |
由来 | 後漢書宋弘伝 |
意味 | 貧しい時代に苦楽を共にした妻は大切にするべき |
糟糠の妻は堂より下さずは「貧しい時代を共に過ごした妻を棄てるべきではない」とする言葉から来ています。
苦難を共にした妻の事を「糟糠の妻」と呼ぶ事も多いです。
後漢王朝の建国者である光武帝には姉の湖陽公主がいましたが、寡婦となっていました。
未亡人となってしまった姉の為に、宋弘に縁談を勧めますが、宋弘はきっぱりと断っています。
この時に宋弘が発した言葉が「糟糠の妻は堂より下さず」です。
宋弘は皇族との縁談を断わり貧しい時の苦労を共にした妻を栄転の為に捨てる事は無かったと言えるでしょう。
因みに、糟糠は酒粕や米糠と言った貧しい食べ物を指し、堂は座敷の事を指します。
糟糠の妻は堂より下さずの意味は「貧しい時に苦楽を共にした妻は大事にするべき」という教えとなっています。
未亡人になった湖陽公主
後漢王朝の光武帝は新の王莽の混乱を勝ち抜き皇帝となりました。
光武帝には姉の湖陽公主がいましたが、寡婦となってしまったわけです。
光武帝は弟として姉の湖陽公主が望む相手に嫁がせようと考えました。
後漢王朝の初期には雲台二十八将と呼ばれる功臣もおり優れた人材も多くいました。
光武帝は姉に意中の男性を聞くと「宋公は立派な人物であり他の連中は足元にも及ばない」と答えています。
ここでいう宋公と言うのは、大司空となっていた宋弘であり光武帝が天下統一後に招いた人物でもあります。
光武帝は自分の姉を宋弘に嫁がせようと考えました。
勿論、宋弘は既に結婚していましたが子供もいなかった様であり、湖陽公主を勧めようと考えたわけです。
苦労人だった宋弘
光武帝は姉の湖陽公主を帳の後ろに隠れさせ宋弘を呼び寄せました。
宋弘がやって来ると光武帝は「貴くなれば人との交際を変え、裕福になれば妻を変える。というのが人情ではなかろうか」と切り出します。
つまり、光武帝は貴方は裕福になったのだから妻を変えるべきではないだろうか。と宋弘に打診した事になります。
宋弘は後漢王朝の高官である大司空となっていましたが、前漢王朝の末期には赤眉の乱があり苦難を潜り抜けて来た人でもあります。
実際に宋弘自身が絶望し自殺しようとした事もあり、苦労人だった事は間違いないでしょう。
当然ながら宋弘を支えて来た妻もいたわけです。
宋弘は皇帝からの縁談の話だと気付きました。
宋弘は意見を求められると堂々と次の様に答えています。
宋弘は意見を求められると堂々と次の様に答えています。
貧しい時の交友こそ忘れてはならず、ともに糠や糟を食べた妻を追い出すべきではない。これが正しい道だと考えております。
宋弘の糠や糟を食べた妻と言うのが、糟糠の妻であり「糟糠の妻は堂より下さず」の故事成語が誕生したわけです。
宋弘が湖陽公主を娶れば現在の妻を正妻から側室に落とさねばならず、妻の主が湖陽公主となってしまいます。
これが「堂より下さず」の部分に繋がります。
宋弘は苦難を共にした糟糠の妻を堂より下ろす事は出来ないと宣言し、縁談をきっぱりと断りました。
宋弘が退出した後に光武帝は帷の後ろに隠れていた湖陽公主に「上手くいきませんな」と述べた話があります。
糟糠の妻は堂より下さずの言葉は「苦難を共にした妻は大切にするべきである」という教訓にもなっています。
光武帝の方でも宋弘に無理やり湖陽公主を嫁がせる様な事をしませんでした。
糟糠の妻は堂より下さずの言葉通りになったわけです。
糟糠の妻は堂より下さずが通じない相手もよる
糟糠の妻は堂より下さずは美談として語られるわけですが、相手が柔よく剛を制すと言われた光武帝だから通用した部分もあります。
三国志に夏侯尚という人物がいますが、皇族出身の正妻がいましたが、妾を溺愛し可愛がっていました。
正妻は皇帝の曹丕にこの事を告げると、曹丕は夏侯尚の妾を殺害してしまったわけです。
曹丕の考えでは妾がいなくなれば問題は解決すると思ったのでしょう。
仮に宋弘の主君が曹丕であったならば、宋弘の糟糠の妻を殺害し無理やり結婚させた可能性もあると感じています。
光武帝は中国史上最高の名君と呼ばれ功臣の粛清を行わなかった人物でもあり、人間性もよくできた人でもあります。
光武帝だったからこそ「糟糠の妻」の言葉で納得したのであり、君主が違えば大惨事になっていた可能性もある様に感じました。
現代にも糟糠の妻はいるのか
現代の日本に糟糠の妻はいるのかですが、台所に糠や糟が置いていない場合も多く、厳密には糟糠の妻はほぼいないと言えるでしょう。
ただし、糠や糟を食べなくても上手くいかない夫を支えてくれる妻はいるとは感じています。
糟糠の妻は堂より下さずの由来となった話では宋弘の人間性ばかりが強調されますが、宋弘の妻も立派な人だったのでしょう。
立派な妻なくして糟糠の妻の話は誕生しないはずです。