世界中の神話で人間がどの様にして誕生したのかを語られています。
日本神話の場合は、人間が何処で誕生したのかを述べず、知らないうちに誕生していた事になっていますが、世界の神話を見ると神が人間を創造したりもしています。
神話の中では男女を別々の起源とするものもあるわけです。
旧約聖書では神はアダムの肋骨からイヴ(エバ)が誕生し、ポリネシアでも似た様な神話があります。
世界各地に男女別々の起源だとする神話が残されており、どの様なものがあるのか解説します。
尚、この記事は角川ソフィア文庫の世界神話事典 創世神話と英雄伝説を元にした記事となっています。
男女別々起源神話のゆっくり解説動画も作成しており記事の最下部から視聴する事が出来ます。
男性の願いが女性を誕生させた
東アフリカのヴァザニャ族では、神は最初に一人の人間を創り出したとする神話があります。
この神が最初に創り出した人間は男性であり、長期間に渡り一人で暮らす事になります。
男性は長い期間を一人で暮らしますが、この間に七日間の暗黒があったと言います。
暗黒期間が終わる頃に男性は「配偶者が欲しい」と神に懇願しました。
神に祈り男は手を伸ばすと、何かが横たわっている事に気付きます。
八日目に暗黒が開けると神が男性に一人の女性を伴侶として、連れて来てくれた事を知りました。
これにより男女が揃った事になります。
ヴァザニャ族の神話では世界には最初に男性がおり、男性の願いが神に通じ、女性が誕生したと言えるでしょう。
尚、ヴァザニャ族の神話では男性は最初に世界に一人しかいなかった事になり、一人しかいないのであれば「一人で寂しい」という概念が存在するのかという問題があります。
ただし、周りに動物がいたとすれば、動物は群れをなしているのに自分は一人ぼっちで寂しいという概念が生まれた可能性はあります。
それでも、ヴァザニャ族の男女の誕生は男性の願いが神に届くと言う感動的な話になっている様には感じました。
神が男性を激励し女性を娶る
北米のブラックフット族の中のブラッド部族の神話では、大洪水の後に創造神ナピオアは大地を造り、その後に人間を造ったとあります。
尚、ブラックフット族の起源は1万8千年前の氷河期まで遡る事が出来るとも伝わっています。
大洪水の話は夏王朝、旧約聖書など世界中に神話として残っており、興味深い部分ではありますが、ブラッド部族の神話で興味深いのは、神が最初に創った人間が女性だった事でしょう。
ただし、創造神ナピオアが最初に造った女性は完全体ではなく、口が縦に避けていたとあり、今の人間とは違っていました。
創造神ナピオアも縦に国が避けているのは変だと感じ、現在の人間の口の形にしたわけです。
この後にナピオアは何人かの男女を創りましたが、男女で別々で暮らした事で、男性は女性を見る事が出来ませんでした。
こうした中で男性が女性を見てしまうわけですが「あきれ返り、それでいて怖がった」とあります。
ここでナピオアは男たちに「一人ずつ女性をとれ」と述べましたが、男性は女性を恐れて取る事が出来なかったわけです。
ナピオアは恐れている男性を激励し、男は一人ずつ妻を娶る事になります。
北米のブラッド族の話では体育会系の先輩が草食系の後輩を激励するが如く、男性と女性が結ばれる話となっています。
男性の親指から女性が登場
グリーンランドのイヌイットの神話では最初に男性が大地から誕生したとあります。
イヌイットはエスキモーの方が名前が伝わりやすかったりしますが、差別用語だともされており、現在ではイヌイットと呼ばれる事も方が多くなっています。
彼らもイヌイットと自称しており、イヌイットと呼んだ方がよいでしょう。
イヌイットの神話で大地から人間が誕生するのは、日本神話で人間が「人草」と呼ばれ、大地に生えている草を人間としたのを彷彿させる部分があります。
男性が最初に誕生したわけですが、この後に男性の親指から女性が誕生する事になります。
イヌイットでは大地から誕生した男性とその親指から誕生した女性で、人類が始まった事になっているわけです。
男性は全ての他の事物を世界に誕生させ、女性は死をもたらせました。
女性は子供たちに「お前たちの子孫の場所を作るために死ななくてはならない」と述べたと言います。
女性と死が関係している部分は、日本神話のイザナミを思い起こさしてくれる部分があると思いました。
イザナミはヒノカグツチを出産し亡くなり、黄泉の国でイザナギと決別する時には「1日に1000の人間の命を奪う」と述べ、黄泉津大神にもなっています。
イヌイットの神話では、この続きがあり後に大洪水が起こり生き残ったのは一人の男性だけとなりました。
生き残った男性は杖で地面を叩くと、妻が出て来て再び地上に人間が住むようになったとあります。
ここでも洪水があった事になっており、大洪水と言うのは人々の記憶に残っていたとも考えられるはずです。
男性が下に位置付けられる一夫多妻制
西アフリカのエコイ族は一夫多妻制の民族ですが、実権を握っているのは一人の夫ではなく、多くの妻の方です。
これを裏付ける話がエコイ族の神話の中にあります。
エコイ族の神話では世界が創生された時には、男性がおらず女性しかいませんでした。
世界の神話や逸話の中ではアマゾネスや女人国の様な女性しかいない国が出て来たりしますが、エコイ族の神話では世界の始まりの時には女性しかいない国だった事になります。
大地の神アフバッシ=ヌシはある時に、間違って一人の女性の命を奪ってしまいます。
女たちは神が仲間の女性の一人を殺してしまった事を知ると皆で集まり、神に「私たちを殺すつもりなら、一人ずつではなく一度に全員を殺してください」と嘆願しました。
神の方でも女性たちを皆殺しにするつもりは全くなく、一人の女性を殺害してしまった罪滅ぼしに「何でも欲しいものを与える」と約束します。
女性たちは神に「与えてくれるものを列挙してください」と告げると、神は果物や鳥など様々なものを出しますが、女性たちは「欲しい」とは言いませんでした。
神は何を言っても女性たちは「欲しい」とは言わず、最後に残ったのが「男」だけとなったわけです。
神は女性たちに「男が欲しいのか」と問うと女性たちは「欲しい」と言います。
神は男性を女性たちに与えると決めると、女性たちは皆で大喜びし踊り出すものまで出る始末でした。
こうした事情もあり、女性たちは男性を手に入れる事に成功したわけです。
男性たちは女性たちの召使となり、男性は女性の為に働かなければいかなくなります。
エコイ族の男性は結婚すると女性の下に位置付けられ、女性が男性を所有する事になります。
女性は男性に様々な要求が出来る様になり、要求した事をこなすように男性を期待します。
一夫多妻制と言えば、男性が威張っていて女性が下にいる様なイメージがあるのかも知れませんが、エコイ族では人数が多い妻の方が偉い存在となるのでしょう。
一夫多妻と聞くと「羨ましい」などと想像する男性もいるのかも知れませんが、実際には男性にとって過酷な一夫多妻制も存在する事になります。
男女別々起源神話の動画
男女別々起源神話のゆっくり解説動画です。