甘美内宿禰は日本で最初の宮廷闘争を巻き起こした

甘美内宿禰は日本書紀の応神天皇の時代に記録があり、武内宿禰の弟という事になっています。

甘美内宿禰は兄の武内宿禰を排除しようと企て、讒言を行いました。

これが日本で記録に残る限りでは最初の宮廷闘争となります。

応神天皇は甘美内宿禰の言葉が正しいのか、武内宿禰の言い分が正しいのか判別する事が出来ず、古代日本の神明裁判である盟神探湯を行いました。

盟神探湯の結果として、甘美内宿禰は敗れ去り武内宿禰の勝利が決まったわけです。

尚、武内宿禰は景行天皇から始まり仁徳天皇までの時代である５代の天皇に仕え、年齢は３００歳を超える設定となっています。

武内宿禰の弟である甘美内宿禰が、何歳まで生きたのかは記録がなく分かっていません。

因みに、古事記によれば甘美内宿禰は孝元天皇の孫だとする記述もあります。

武内宿禰と甘美内宿禰は異母兄弟だとされる場合が多いです。

兄を讒言

日本書紀によると、応神天皇の９年４月に武内宿禰を筑紫に遣わしたとあります。

神功皇后の時代に大和王権の勢力は九州を呑み込んだ事は確実視されていますが、九州はまだまだ不穏な動きもあり重臣の武内宿禰を派遣したのでしょう。

武内宿禰が大和の地を去ると、弟の甘美内宿禰は応神天皇に次の様に述べました。

※日本書紀より

甘美内宿禰「兄の武内宿禰は天下を狙う野心を持っています。

この度、筑紫に行きましたが兄は『筑紫を自分の勢力下におき三韓を従わせる事が出来たならば、天下を取ることが出来る』と述べているのです」

甘美内宿禰は武内宿禰には謀反の心があると告げた事になります。

武内宿禰は神功皇后の時代には政務を補佐した功臣だったわけですが、応神天皇は武内宿禰を疑い殺害する様に命じました。

甘美内宿禰の讒言により窮地に立たされた武内宿禰ですが、この様な無茶な命令に素直に従う事はしませんでした。

武内宿禰の容貌にそっくりな真根子の死などもあり、武内宿禰は奮起して大和の地に戻る事になります。

武内宿禰は宮廷に入り応神天皇の前で甘美内宿禰と対決しました。

応神天皇は甘美内宿禰と武内宿禰のどちらが正しいのか決める事が出来なかったわけです。

困った応神天皇は盟神探湯という神明裁判により決着をつけようとしました。

甘美内宿禰と武内宿禰は磯城川で盟神探湯を行い勝負を決する事になります。

因みに、盟神探湯は手を熱湯の中に入れ爛れなかったら勝ちという現代で考えれば、不条理な神明裁判となります。

普通であれば、甘美内宿禰と武内宿禰の両方の手が爛れてしまい引き分けとなりそうな気もするのですが、何故か甘美内宿禰の手は爛れ武内宿禰の手は爛れませんでした。

結果として、甘美内宿禰は敗れ去り武内宿禰に命を奪われそうになりますが、応神天皇の鶴の一声により甘美内宿禰は命拾いしています。

ただし、勝負に負けた甘美内宿禰は紀直の先祖に賜わったとあり、家来のされてしまったのでしょう。

一説によると甘美内宿禰は隷属されてしまった事になっています。

この後に、甘美内宿禰は歴史から姿を消しており、どの様になったのかは不明です。

日本書紀の記述によれば、甘美内宿禰は応神天皇に許された事になっています。

許された理由は定かではありませんが、甘美内宿禰は応神天皇に信頼されていた事が理由なのかも知れません。

甘美内宿禰は兄を讒言する様な人であり、性格がいいとは言えず、忠臣とも言えないはずです。

しかし、応神天皇は甘美内宿禰を可愛がっていたのではないかとも感じました。

中国の三皇五帝の時代に舜は孝行であり聖人の素質があったにも関わらず、家族は放蕩者の弟を愛し舜を殺害しようとした話があります。

歴史を見ると勤勉で真面目な者が必ずしも好まれるとは限らず、同じ事が応神天皇と甘美内宿禰の間でも起きた様にも感じました。

他にも、武内宿禰と甘美内宿禰の戦いである盟神探湯が余りにも非科学的であり、応神天皇は甘美内宿禰に同情した可能性もある様に感じています。

現代人の感覚で考えれば、熱湯に手を入れても爛れない武内宿禰は何かしらのイカサマをした可能性もある様に感じました。