天沼矛は日本神話に登場する矛です。
矛と言えば武器を想像するかも知れませんが、日本神話の中で天沼矛を装備して敵と戦った描写は一度もありません。
しかし、天沼矛はイザナギとイザナミが天の神より授かった矛であり、由緒正しきアイテムという事になるのでしょう。
神世七代のイザナギとイザナミは神々から与えられた天沼矛を使いオノゴロ島を完成させました。
オノゴロ島に降りたったイザナギとイザナミは、天御柱と八尋殿を創り出し、ここから国生みが始まる事になります。
それを考えれば、天沼矛は武器ではありませんが、伝説のアイテムと言ってもよいでしょう。
尚、日本は神話の時代から繋がっている国であり、草薙剣や三種の神器など現存しているものもあります。
しかし、天沼矛は神が使用した道具であるせいか、実物は伝わっておりません。
天沼矛を渡される
天地開闢があり別天神、神世七代の神々が現れては消えていきました。
神世七代の七代目であるイザナギとイザナミが成り出てきますが、神々は次の様に述べます。
※古事記より
この漂っている状態の国土を修め固まり成す様にせよ。
神々はそう言い終わると、イザナギとイザナミに天沼矛を渡しました。
神から授かった天沼矛を受け取ったイザナギとイザナミは国づくりに励む事になります。
造化三神や別天神、神世七代の他の神々は現れては消えるだけであり、言葉を発した記録がありません。
それを考えると、イザナギとイザナミに天沼矛を渡した神の言葉が、日本で最初に発せられた言葉だとも考えらえています。
そうなると、天沼矛をイザナギとイザナミに渡した神は誰なのか?という問題が出るはずです。
しかし、古事記や日本書紀にどの神がイザナギとイザナミに命令したのか?の具体的な記述がありません。
その為、イザナギとイザナギに天沼矛を渡した神は、今までに成り出て来て隠れてしまった神々ではないかと考えられています。
共同作業
神々から天沼矛を受け取ったイザナギとイザナミは天浮橋に行きました。
この時のイザナギとイザナミは天界である高天原におり、後に地上に行く為の通路となるのが天浮橋です。
天浮橋の上に立ったイザナギとイザナミは、天沼矛を下界の方に刺しかき混ぜてみました。
この時の地上は地面がまだなく混沌とした世界だったわけですが、天沼矛で下界を「こおろ。こおろ」とかき混ぜたわけです。
イザナギとイザナミは天沼矛を抜いてみると、矛から塩が滴り固まりてオノゴロ島が完成しました。
天沼矛から滴れた塩からオノゴロ島が完成したと言えるでしょう。
イザナミとイザナギは地上の拠点とするオノゴロ島を創り上げる事に成功しました。
日本書紀の一書第二では、天瓊戈(天沼矛)からオノゴロ島を完成させたイザナギとイザナミは喜び「良かった。国が出来た」と述べたと伝わっています。
イザナギとイザナミが天沼矛を使いオノゴロ島を完成させたのは、日本で最初の男女の共同作業だと考えられています。
男女の共同作業により国生みの話しが始まる事を考えれば、古代日本の男女に対する思想も現れているのでしょう。
因みに「原初の宇宙や国土が海中に漂っている」というのは、ポリネシア系の海洋民族の神話に近いとも言われています。
異伝
日本書紀に天沼矛からオノゴロ島を造った異伝が記載されています。
ここでは天沼矛と記載されておらず、玉飾りの矛と記載があります。
玉飾りの矛ですから、立派に飾った矛だったという事なのでしょう。
しかし、玉飾りの矛の役目を考えると天沼矛と変わりはないといえます。
日本書紀の一書第四では、地上を見たイザナギとイザナミは語り合い次の様に述べました。
※日本書紀一書第四より
何か脂の様なものが浮かんでいる。
その中に国があるはずだ。
イザナギとイザナミは脂の様なものを、玉飾りの矛でかきさぐったりして一つの島を造ったわけです。
これがオノゴロ島であり、玉飾りの矛(天沼矛)を使ってオノゴロ島を完成させたといえます。
天沼矛は何を示すのか?
天沼矛から潮が滴り垂れてオノゴロ島が完成しました。
天沼矛は男性器を表しているのではないか?とする説もあります。
潮が下垂れて何かが出来るのは、男女の交わりを指すのかも知れません。
尚、北欧神話ではメス牛が舐めた塩分を含む氷を舐めた事から、ブーリが誕生しました。
北欧神話に出て来る大体の神様はブーリの子孫という事になっています。
天沼矛から塩が垂れてオノゴロ島が出来た様に、塩と人間には密接な関係があり、神話に入ったのではないか?とも考えられています。