胡邈は正史三国志の注釈である献帝起居注に名前が登場する人物です。
正史三国志の本文には登場しません。
胡邈は皇甫酈と言い争いになった位しか記述はありませんが、胡邈の字は敬才だとはっきりとしています。
胡邈は李傕に可愛がられており、詔勅を取り扱う役人に命じて粉飾させようとした話があります。
その事で、胡邈と皇甫酈は罵り合う事となり、胡邈との経緯が原因で皇甫酈は長安を去る事になります。
今回は献帝起居注に登場する胡邈を解説します。
言葉を書き換える
皇甫酈は李傕と郭汜の仲裁を行おうとしますが、最後は李傕を怒らせてしまい失敗に終わりました。
皇甫酈は献帝に状況を伝える為に、禁門に行き李傕が詔勅に応じず、言葉は不敬だったと、ありのままに報告しようとしたわけです。
胡邈は日頃から李傕に目を掛けられていた事もあり、詔勅を管理する役人を呼び出し、皇甫酈の報告を書き換えようとしました。
胡邈は皇甫酈の「李傕の態度が不敬だった」とする内容を変更してしまおうと考えたのでしょう。
胡邈にしてみれば、皇甫酈の報告がそのまま献帝の元に届いてしまえば、李傕が献帝に対し無礼な行いをした事になり、不利になると考えたわけです。
しかし、胡邈は皇甫酈に理由を説明しようとし、これが原因で胡邈と皇甫酈は言い争いに発展しました。
皇甫酈と争う
胡邈は皇甫酈に対し、李傕は皇甫酈をいい加減に扱ってはいないし、伯父の皇甫嵩を大尉に任命したのは李傕のお陰だと述べます。
胡邈は皇甫酈に恩がある李傕に対し「不利になる様な事はするな」と言いたかったのでしょう。
しかし、皇甫酈は納得せず、次の様に答えました。
※献帝起居注より
皇甫酈「胡敬才(胡邈の字)、貴方は国家の常伯であり、側にいて補佐する臣下ですぞ。
その様な事を述べて、一体何の役に立つというのだ」
皇甫酈は胡邈の行動は、国家にとって役に立つ事ではないと述べた事になります。
胡邈が李傕の為を思って行動しているのに対し、皇甫酈は国家の為に行動しようとしていたわけです。
胡邈は恩着せがましい事を言っても皇甫酈を怒らせるだけで、説得出来ないと考えたのか次の様に述べました。
胡邈「貴方が李将軍(李傕)の機嫌を損なうと重大な事が起きると思い、私は助けてあげようとしたのです。
私は貴方の事を思って行動しただけなのです」
胡邈は皇甫酈が李傕の怒りを買わない為に、やろうとした行為だと述べます。
胡邈は情に訴えて、皇甫酈を説得しようとします。
しかし、胡邈の言葉は皇甫酈の耳に入らず、皇甫酈は次の様に答えました。
皇甫酈「我が家は代々に渡り天子の恩を受けており、私自身も常に天子の側で仕えて来た。
主君が恥辱を受けたのであれば、私は命を投げ出そうと思っている。
国家の為に李傕に殺されても、それが天命だ」
皇甫酈は胡邈に対し、自分は李傕に従うのではなく、献帝に従う事を宣言した事になります。
胡邈もここまで言われてしまうと、返す言葉がなかったはずです。
実際に、胡邈に対し皇甫酈は、かなり厳しい態度で挑んだのでしょう。
胡邈と皇甫酈の話を献帝が聞いており、李傕に知られたら皇甫酈の命はないと考えました。
献帝は皇甫酈に対し、逃亡する様に命じ、皇甫酈は長安を出る事になります。
後に李傕は皇甫酈が逃亡した事を知ると、王昌に命じ追わせますが、王昌は皇甫酈の性格を知っており、わざと逃しました。
李傕政権には胡邈の様に李傕に尾を振る者もいれば、皇甫酈や王昌の様に献帝に対して心を寄せる者も多くいたのでしょう。