| 名前 | 高師冬 |
| 読み方 | こうのもろふゆ |
| 生没年 | 生年不明ー１３５１年 |
| 時代 | 南北朝時代 |
| 一族 | 父：高師行 義父：師直 兄弟：師秋、三戸師澄 |
| コメント | 高氏一族No.３の実力の持ち主 |
高師冬は高一族の中でも高師直、高師泰に継ぐ実力の持ち主です。
軍事能力も合わせると高一族でNo.３だと言っても過言ではないでしょう。
高師冬は関東での活躍が多く北畠親房との常陸合戦で勝利を挙げています。
後に上杉憲顕と共に関東執事となり、足利基氏を補佐する事になります。
ただし、観応の擾乱が東国にまで波及すると上杉憲顕と対立しました。
関東で強い地盤を持つ上杉憲顕に対し、高師冬は苦戦し甲斐の須沢城にまで追い込まれています。
須沢城を攻撃する上杉憲将に信濃から諏訪頼継の援軍が到着しますが、この中にいた諏訪五郎とは親子の契りを結んでおり、高師冬は諏訪五郎と共に世を去りました。
尚、松井優征先生が描く北条時行を主人公とした「逃げ上手の若君」で、吹雪なる人物が登場しています。
逃げ若だと高師冬と吹雪が同一人物とされていますが、実際には高師冬は身元も分かっており、吹雪が架空の人物だと言えるでしょう。
高師冬は史実にも記載があり、間違いなく実在した人物です。
高師冬の動画も作成してあり記事の最下部から視聴できる様になっています。
高師冬の出自
高師冬は高師行の五男として生まれた事が分かっています。
高師直と高師冬は従弟になりますが、後に高師直は猶子としました。
高師冬は新左衛門尉を名乗りますが、三河守となり後に播磨守となった事が分かっています。
高師冬は一族の高師泰の娘の明阿を妻に迎えました。
建武の新政が始り坂本合戦の頃から、高師冬の活動が見られる様になります。
佐竹義基の軍忠状によると、高師冬は見知証人であると明記されています。
西阿討伐
建武四年（１３３７年）の大和国開住城に西阿討伐では、吉川経久や経時は高師冬に属して戦う事を足利直義から命令されています。
高師冬は実際に西阿に与する興福寺歓喜心院を包囲し、前大僧正覚尊を捕虜とし淡路国に配流しました。
武で功績を挙げた高師冬に対し、高師直や高師泰らも期待感は高かったはずです。
高師冬は高一族の有力武将として成長していく事になります。
奥州軍との戦い
１３３８年に青野原の戦いが勃発しました。
後醍醐天皇が奥州へ北畠顕家の上洛命令を出した事で、青野原の戦いが起きたわけです。
青野原の戦いでは土岐頼遠らが奮戦しますが、幕府軍は結局は敗れています。
室町幕府では奥州軍の近江通過を回避させる為に、美濃への援軍を出しました。
この軍の中に高師冬がいたわけです。
高師泰を総大将とする幕府軍は黒血川に布陣し、決死の覚悟を見せました。
北畠顕家率いる奥州軍は青野原の戦いでの損耗もあり、黒血川で戦おうとはせず伊勢路から吉野を目指しています。
高師冬は幕府軍と奥州軍との間で起きた般若坂の戦い、石清水合戦、摂津国天王寺合戦などにも参加しており、近畿での大戦を経て頭角を現していったのでしょう。
高師冬の第一回関東下向
１３３９年になると高師冬は高師泰と共に東国に向かいました。
高師泰は南朝の宗良親王を討つために、遠江に留まりますが、高師冬は鎌倉に下向する事になります。
後醍醐天皇の崩御する前に、結城宗広の策で南朝の重臣が地方に行き、地方から挽回する策を実行しました。
南朝の大船団の大半は壊滅しますが、北畠親房や伊達行朝が奥州まで辿り着いており、室町幕府の脅威となったわけです。
北畠親房は小田治久に迎え入れられ、高師冬は北畠親房と戦う為に関東に下向したと言えるでしょう。
高師冬は武蔵国村岡宿に軍陣を構えた事が分かっています。
武士たちへの負担
高師冬の常陸合戦に参加した武士に山内経之なる者がいた事が分かっています。
山内経之は小規模な武士であり、高師冬の従軍命令により家を売ってまで出陣した話が残っています。
当時の関東には高師冬の常陸合戦に対し、協力しない様な者は所領没収があるとする噂も流れており、山内経之も泣く泣く家を売って従軍したと考えられています。
尚、高師冬の軍は武士たちの自己負担により成り立っており、当時の武士たちの苦しさも分かるはずです。
駒館との戦い
高師冬は鬼怒川の反対に位置する駒館の勢力と戦う事になります。
１３３９年の１０月から始まった戦いですが、一進一退の攻防が続き戦いは年を越しました。
その間に、高師冬の軍では戦線を離脱し帰国するものが多かった様です。
南朝の北畠親房は結城親朝を味方にしようとしますが、結城親朝は北朝の石塔義房とも繋がっており、進退をはっきりせなかった事で常陸合戦は膠着状態になってしまったのでしょう。
暦応三年（１３４０年）の正月に南朝勢は関宗祐や春日顕国が攻勢に出ますが、ここでも戦況を変える事は出来なかったわけです。
１３４０年５月に高師冬は大規模な攻撃を仕掛けると、中御門実寛が捕虜となり、駒館の勢力は衰退に向かいました。
しかし、南朝勢は直ぐに反撃し垣本、鷲宮を放火し反撃に出た事で、高師冬は陣屋を焼き払い後退しています。
高師冬は駒館の勢力を倒しはしましたが、常陸合戦終焉への決定打にはなかなかったわけです。
高師冬と北畠親房の戦い
高師冬は駒館での戦いが終わると、瓜連城に入った事が分かっています。
瓜連城は常陸国の北部にあり、過去には南朝の重要拠点でしたが、北畠顕家の時代に陥落し、危機を感じた北畠顕家は陸奥将軍府を多賀城から伊達霊山城に移しました。
瓜連城の近くにの太田城には常陸守護の佐竹氏がおり、高師冬は佐竹義篤との調整を行ったと考えられています。
佐竹義篤は一貫して足利氏を支持していましたが、高師冬の軍とは距離を置いており、様々な確認をしたとみる事が出来るはずです。
小田城を降伏させる
１３４１年５月に高師冬は瓜連城を出発し、北畠親房及び小田治久がいる小田城に軍を進めました。
高師冬は小田城の北にある宝篋山に布陣する事になります。
高師冬は新治郡、真太郡、東条荘などにも軍を派遣し、小田城への求心力低下を狙いました。
小田城内では護良親王の遺児である興良親王もいましたが、後に北畠親房と仲違いを起こし小山朝郷の元に向かっています。
北畠親房の調略が失敗した事などもあり、小田城内では求心力が低下しました。
こうした状況を見て北畠親房は小田城を去り、小田治久は高師冬に降伏しています。
それでも、北畠親房はまだ諦めてはおらず、春日顕国が大宝城に移り交戦を続けました。
北畠親房は関宗祐の関城に移り春日顕国と連携し戦う事にしたわけです。
関城・大宝城の戦い
高師冬は小田治久らと共に関郡を目指しました。
これにより関城・大宝城の戦いが勃発する事になります。
関城と大宝城は三面を沼に囲まれた舌状大地であり、陸路を遮断するのは簡単でしたが、水路を抑えるのに苦労する事になります。
当時は大宝沼が関城と大宝城の間にあり、船での移動を可能にしていたわけです。
１３４２年になると高師冬が多いに軍勢を招集したとする噂が流れ、南朝側に脅威を与えました。
１３４２年の５月になると南朝側では船での移動も困難になり始めています。
この頃から関城や大宝城では伊佐城、真壁城、中郡城、下野西明寺城との連携が困難になって行きます。
こうした中で高師冬は関城の掘り際まで迫りますが、関城守備隊の奮戦により阻まれています。
大宝寺城にいた春日顕国は大宝城から出撃し、下総結城氏の結城直朝を討ち取るなどの戦果も挙げました。
こうした中で高師冬は攻勢を仕掛け櫓の下に坑道を掘り城を陥落させようとしますが、落盤の事故があり金師が圧死するなどもあり失敗に終わっています。
そこで高師冬は関城と大宝城の間の沼地に目を付け、乱杭を二重に打ち船の移動を妨害しました。
高師冬の粘り強い戦いにより最終的には、関城、大宝城が陥落しました。
北畠親房は南朝の本拠地である吉野に帰りますが、関城の城主・関宗祐が自害して果てています。
近畿で活動
常陸合戦を勝利で終えた高師冬は１３４４年に武蔵国府中を経由し近畿に戻りました。
尚、高師冬の発給文書を見ると軍事関係が圧倒的に多く、行政的な文書が少ない事から、高師冬の東国派遣は北畠親房率いる南朝勢力の打倒が目的だったのでしょう。
京都に戻った高師冬は足利尊氏が後醍醐天皇の為に建立した天龍寺の行事にも参加した記録が残っています。
高師冬はこの時期に三河守から播磨守に変わっており、伊賀守護となり近畿での活動が見られます。
四条畷の戦いの後に摂津国池田荘や多田荘に関する文書も残っており、摂津守護になっていた可能性も指摘されている状態です。
鎌倉に再度下向
１３４９年に高師冬は再び鎌倉に下向しました。
高師冬は鎌倉で関東執事としての職務を行いました。
前任者の高重茂は上杉憲顕と政治力は互角でしたが、戦いとなれば上杉憲顕に遅れを取っており、こうした理由から高師冬に交代したとも考えられています。
高重茂は近畿に戻る事になります。
室町幕府では足利直義と高師直の対立により、足利直義が失脚する事件が起きました。
足利直義が出家した事で、鎌倉にいる足利義詮が京都に入り、足利基氏が鎌倉に到着しました。
東国の長が鎌倉公方の足利基氏となり上杉憲顕と高師冬で支える体制となります。
甲斐に逃亡
１３５０年に観応の擾乱が軍事衝突に発展し、足利直冬討伐に向かった足利尊氏と高師直に、突如として足利直義が兵を挙げました。
こうした情勢は関東にも伝わり、高師冬は鎌倉公方の足利基氏を連れて、鎌倉を出る事になります。
高師冬が鎌倉を出た理由は、同じく関東執事の上杉憲顕の活動が活発になった為とも言われています。
鎌倉は難攻不落のイメージもありますが、南北朝時代に何度も落城しており、防備に向かない部分もあったのかも知れません。
ただし、鎌倉を出た高師冬の従者には直義派の者も含まれていました。
直義派の石塔義房が足利基氏奪還を企て、高師冬と行動を共にした直義派の者達と協力して湯山坊中において足利基氏の身柄を確保しています。
高師冬側の人間である水戸七郎、彦部次郎、屋代源蔵人の三人が討たれたと京都に伝わりました。
高師冬も命の危険に晒されたはずですが、辛くも甲斐に逃げ延びる事になります。
関東では上杉憲顕が長年に渡り統治の中心になっており、高師冬は太刀打ちできなかったのでしょう。
尚、甲斐に逃亡した高師冬が巨摩郡逸見城で上杉憲将、上杉能憲らにより、包囲されたとする情報が京都にもたらされた話が残っています。
甲斐国人の逸見孫六郎入道が高師冬を支持していた証だと考えられています。
ただし、実際には高師冬は逸見孫六郎入道らと共に、甲斐の須沢城に入っており、籠城戦を展開する事になります。
高師冬の最後
上杉憲将が主導する須沢城攻撃に馳せ参じた者として、市河経助、市河泰房、上原弥四郎、英多弾正左衛門尉の名前が挙がっています。
既に高師冬の求心力は落ちており、多くの武士が上杉勢に味方し須沢城の戦いは苦しいものとなりました。
さらに、信濃からは諏訪頼継の軍勢がやってきて上杉方に加わっています。
高師冬は追い詰められますが、諏訪頼継の配下に諏訪五郎なる者がおり、高師冬が烏帽子親だったと伝わっています。
諏訪五郎は「高師冬と親子の契りを結びながら背くのは不義にあたる」と述べ、曾参や孔子の話を例に出し、諏訪頼継に別れを告げました。
諏訪五郎は須沢城に入ると、高師冬と共に自害したわけです。
高師冬は１３５１年に須沢城の戦いに敗れ世を去りました。
高師冬の動画
高師冬のゆっくり解説動画となっています。
この記事及び動画は戎光祥出版の南北朝武将列伝をベースに作成しました。
