名前 | 史蘇(しそ) |
国 | 晋 |
コメント | 晋の混乱を予見 |
年表 | 紀元前672年 晋の献公の驪戎討伐に反対 |
史蘇は春秋時代の大国である晋の混乱を予見した人物です。
晋の献公は驪戎の討伐を行おうとしますが、史蘇は「戦いには勝つが負ける」という不思議な占い結果を出します。
晋の献公は驪戎討伐を強行し、驪姫を手に入れますが、最終的には国を乱してしまったと言えるでしょう。
尚、史蘇は晋が夏の桀王や殷の紂王、周の幽王の様に国が亡ぶと考えた話しもありますが、こちらの予言は外れています。
今回は国語などに記述されている、晋の献公を諫めた名臣である史蘇を解説します。
晋の献公の驪戎討伐
晋の献公は驪戎討伐を計画し、史蘇に驪戎討伐を占わせる事にしました。
史蘇は占いを行いますが「戦いには勝利するが不吉」とする結果が出ます。
さらに、次の様な占いの結果が出る事になります。
「交わる場所で骨を咥え、間で歯が噛み切る。」
占いの結果が意味不明に思うかも知れませんが、史蘇の解釈によれば「歯が交わって噛み切る。」のは勝敗が入れ替わる事を意味すると述べたわけです。
つまり、驪戎との戦いには勝利しますが、結果的に負けると出た事になります。
さらに、史蘇は歯と口は密接に関わっており、口から出た禍が国を傾け民が離散すると述べます。
史蘇は占いの結果を述べただけですが、驪戎征伐は不吉だと考え晋の献公に、驪戎討伐の中止を要請しています。
しかし、晋の献公は多くの諸侯を滅ぼした覇気のある君主であり、史蘇の占いを信じずに驪戎討伐に向かいました。
晋の献公は驪戎を攻撃すると、驪戎の君主(春秋左氏伝には驪戎男とある)は、驪姫と妹を晋の献公に献上したわけです。
これにより、晋の献公は驪姫討伐を打ち切り、驪姫と妹を手に入れ帰国しています。
史蘇の予言は的中し、後に驪姫が禍を引き起こす事となります。
半分だけの恩賞
晋の献公は驪戎討伐が完了すると、酒宴を開きました。
ここで晋の献公は、史蘇に対して酒は飲んでよいと伝えましたが、食べ物は食べてはならないと言います。
史蘇が理由を問うと、驪戎討伐で史蘇の予言は半分が外れ、半分が当たったからだと述べます。
晋の献公は驪戎に勝利し、驪姫と妹を手に入れた事は、大きな吉であり、史蘇の予言は外れたと解釈したわけです。
しかし、史蘇は占いの結果に対し嘘の報告を行えば罪であり、占いの結果を隠してしまうのは職務違反の罪があると述べます。
晋の献公に対しても、吉を喜ぶだけではなく凶事に備える事も大事だと、史蘇は説きました。
晋の献公にしてみれば、驪姫と妹を手に入れた事で、有頂天になっており、ちょっとした嫌がらせを史蘇にしたとも言えるでしょう。
しかし、後に驪姫の乱により、晋が乱れた事を考えると、史蘇の予言が的中したとも言えます。
大夫らに忠告
史蘇は晋の献公が凶事に対し、危機感を持っていない様に見えたのか、晋の大夫らに忠告した話があります。
史蘇は里克、士蔿、郭偃に向かい「男の戎もいれば女の戎もいる」と述べた上で、次の様に述べました。
史蘇「夏の桀王が有施氏を征伐した時に、有施氏は末喜を差し出しています。
殷の紂王は有蘇氏を討伐し妲己を手に入れ、周の幽王は有褒氏を討伐し褒姒を嫁がせました。
この三王は国を滅ぼしております。
晋は徳も無いのに、驪戎を討伐し驪姫を手に入れています。
これは国が亡びる兆候なのではないでしょうか。」
さらに、史蘇は国が占いでは国が離散すると出た事を話し、夏、殷、周が滅亡したのと酷似していると述べたわけです。
つまり、晋の献公が驪姫を寵愛するのは、夏の桀王が末喜を寵愛し、殷の紂王が妲己を愛し、周の幽王が褒姒を寵愛したのと同じだと述べた事になります。
これに対し、郭偃は晋は五代に渡って国が安定しないかも知れないが、晋は天下の主ではなく、斉や秦などの大国もいる事から、滅亡はしないと述べました。
士蔿は史蘇の言う事も郭偃の言う事も一理あると述べますが、歴史を考えると史蘇と郭偃の両方の話が当たったと言えます。
晋の献公は驪姫を寵愛し後継者問題に発達しますが、晋は滅びる事はありませんでした。
ただし、晋は奚斉、卓子、晋の恵公、晋の懐公と安定せず、重耳が晋の文公として即位すると漸く安定し、重耳は春秋五覇の一人にまで成り上がっています。
史蘇の憂え
晋の献公は驪姫を寵愛し、奚斉が誕生しました。
驪姫は奚斉を後継者にしようと画策し、晋の献公も太子を申生から奚斉に変えようと考える様になります。
奚斉は晋の献公に進言し、申生を曲沃の守備に就かせ、有力公子の重耳と夷吾を蒲と屈に移してしまいます。
晋の首都である絳には、驪姫の子である奚斉と驪姫の妹の子である卓子だけが残りました。
こうした状況を見て、史蘇は晋の混乱を予見し、次の様に述べています。
史蘇「晋国は乱れるであろう。晋の献公が驪姫を夫人とした事を民は喜んではいなかった。
古の聖人は民の害を除くために戦争を行ったが、今の晋の献公は自分の為に民を動かしている。
晋が敵と戦っても民は得るものがなく、晋の上下は乱れ始めた。
民の不満の対象であるはずの驪姫に男子が誕生してしまった。
これも天命なのだろうか。これが晋が乱れる原因になるはずだ。」
史蘇は晋の献公が驪姫に夢中になっている事を危惧し、欲深い驪姫に男子である奚斉が誕生した事を危惧したのでしょう。
これが史蘇の最後の記録であり、この後に史蘇がどの様になったのかは分かっていません。
もしかしてですが、史蘇の発言は驪姫の怒りを買う部分もあり、晋の献公により粛清されてしまった可能性もある様に思います。
史蘇の名前は史記にはありませんが、晋の乱れを予見した賢人となるのでしょう。