オオヤビコノカミ(大屋毘古神)は、八十神の迫害を受けた大国主を助けた事で有名な神様です。
ここでは短縮した読み方であるオオヤビコの名で解説を続けます。
オオヤビコは八十神の要求を拒否し、大国主をスサノオの元に向かわせました。
ただし、古事記におけるオオヤビコの具体的な活躍は、大国主を根の堅州国に逃した位であり、非常に謎が多い神様だと言えます。
さらに言えば、なぜ大国主の母親であるサシクニワカヒメがオオヤビコを知っていたのか?やオオヤビコがスサノオを知っていたのか?などの謎が存在します。
しかし、これらの謎は日本書紀に登場する五十猛命(イソタケル)と、オオヤビコが同一神であれば解決するとする専門家もいます。
ただし、オオヤビコとイソタケルを同一人物にしてしまうと、古事記の記述に問題が生じる事実もあるわけです。
尚、伊太祁曽神社の言い伝えではオオヤビコとイソタケルが同一人物であるとする記録もあります。
今回は古事記におけるオオヤビコの活躍と、オオヤビコとイソタケル同一神説を中心に解説します。
因みに、日本書紀にはオオヤビコという名前の神は登場しません。
それどころか日本書紀では出雲での話は、因幡の白兎や大国主の試練も描かれていない状態です。
大屋毘古神の誕生
神代七代のイザナギとイザナミはオノゴロ島に降り立ち、オノゴロ島を拠点とし日本列島を造り出す事に成功しました。
日本列島が誕生したイザナギとイザナミは、まぐわいを行い様々な神を誕生させる事となります。
古事記によれば、イザナギとイザナミは最初に大事忍男神を生むと、石土毘古神、石巣比売神、大戸日別神、天之吹男神、大屋毘古神、風木津別之忍男神を誕生させます。
これらの神は家宅六神と呼ばれますが、この中に大屋毘古神(オオヤビコノカミ)がいたわけです。
オオヤビコは誕生しますが、家屋の神とされているだけであり、名前だけの存在となっています。
古事記でオオヤビコが次に登場するのは、大国主と出会う時であり、その時まで何をしていたのかは分かっていません。
大国主を根の堅州国に向かわせる
出雲では大国主が八十神らに迫害を受け、2度も殺害される事態に発展しました。
一度目は大国主の母神であるサシクニワカヒメが造化三神の神産巣日神に頼み込み生き返らせて貰い、2度目は自らの力で大国主を復活させています。
しかし、サシクニワカヒメは大国主が出雲にいても八十神にやられるだけだと考え、オオヤビコを頼る様にと大国主に言いつけています。
これにより大国主は、オオヤビコがいる木の国(紀伊国)に向かう事となります。
古事記の話を見ると、オオヤビコとサシクニワカヒメは知り合いではないかと思えるはずです。
しかし、古事記にはサシクニワカヒメとオオヤビコの関係が分かっておらず、なぜサシクニワカヒメがオオヤビコを頼る様にと、命じたのかは分かっていません。
それでも、大国主が見ず知らずのオオヤビコの所に行っても迷惑なはずですから、サシクニワカヒメと何かしらの繋がりはあったと考えるべきでしょう。
八十神に襲撃される
大国主はサシクニワカヒメの言う通りに、木の国に訪れる事となります。
大国主とオオヤビコは会う事となりますが、八十神らは木の国まで大国主を追いかけて来たわけです。
大国主が因幡のヤガミヒメに選ばれた事で、八十神らは大国主を憎んでおり、八十神らの嫉妬深さと執念深さが分かる事でしょう。
八十神らは弓矢を向け、オオヤビコに大国主を引き渡す様に要求しました。
八十神らがオオヤビコに大国主を渡す様に脅迫する場面を見るに、オオヤビコはそれほど戦闘力がない神様だと感じます。
オオヤビコは家宅六神で早い段階で誕生した神様であっても、戦闘力が高いとは限らない事が分かります。
しかし、オオヤビコは八十神らの要求を退け、大国主に木の俣を潜らせて逃そうとします。
大国主をスサノオの元に向かわせる
オオヤビコは大国主に木の俣を潜らせて逃す時に、次の様に述べています。
オオヤビコ「スサノオノミコトが根の堅州国にいらっしゃいます。
貴方(大国主)が行けば大神(スサノオ)が上手く取り計らってくれるでしょう。」
オオヤビコは自分の力では、八十神から大国主を守り切れないと判断し、スサノオに任せたとも言えます。
オオヤビコの言葉を考えると、オオヤビコとスサノオには何かしらのコンタクトがあった様でもあります。
しかし、古事記にはオオヤビコとスサノオの関係性の記録がなく、謎な部分だとも言えるでしょう。
古事記では大国主に根の堅州国に向かわせた事を最後に、オオヤビコは幕引きとなり物語には一切登場しなくなります。
しかし、古事記の記述を見る限りでは、オオヤビコは善良なる神になるのでしょう。
五十猛(イソタケル)と同一人物説
今までの話を見ると、オオヤビコに関して不思議な点は下記の二つとなるはずです。
・大国主の母親であるサシクニワカヒメと何故知り合いなのか?
・スサノオを知っていた理由
これに関しては、オオヤビコとイソタケルが同一の神様だとすれば謎が解けるとする話があります。
イソタケルは日本書紀に登場する神様であり、天岩戸神話の後に、父親であるスサノオと共に新羅の国に行った話があります。
イソタケルとオオヤビコが同一人物だとすれば、オオヤビコがスサノオの子となり、オオヤビコがスサノオの居場所を知っていても不思議ではありません。
さらに、スサノオの五代後の子孫がサシクニワカヒメの夫である天之冬衣神となり、スサノオの子であるオオヤビコとサシクニワカヒメが知り合いだったとしても問題ないと考えられます。
他にも、オオヤビコとイソタケルの同一神説は、全く根拠のない話でもなく、イソタケルを祭神として祀る伊太祁曽神社では、次の伝承が伝わっています。
「オオヤビコはイソタケルの別名である」
伊太祁曽神社の言い伝えを信じるのであれば、オオヤビコとイソタケルが同一神となり問題は解決されます。
ただし、オオヤビコとイソタケルが同一神だとすれば、イザナギとイザナミが生んだオオヤビコとは同一神では無くなってしまう問題があります。
オオヤビコはイザナギとイザナミの間に生まれており、イソタケルはスサノオの子だからです。
伊太祁曽神社
伊太祁曽神社は五十猛(オオヤビコ)が祀られている神社です。
上記を見れば分かりますが、オオヤビコとイソタケルが同一の神様として祀られている事が分かります。
さらに、伊太祁曽神社には木で木で出来た俣もあり、オオヤビコを思い起こさせてくれます。
他にも、伊太祁曽神社にはイソタケルの妹であるオオヤツヒメも御祭神として祀られています。
伊太祁曽神社 | 住所:〒640-0361 和歌山県和歌山市伊太祈曽 | 電話番号:073-478-0006 |