禊は穢れから身を清める事を指します。
禊の記録を見ると、古事記や日本書紀に書かれており神話の時代から行われていた事が分かります。
さらに、禊を最初に行ったのは神世七代の最後を飾るとも言えるイザナギであり、日本の父とも呼べる人物です。
イザナギはイザナミを黄泉の国に迎えに行きますが、最終的にイザナギとイザナミは決別しました。
イザナギは黄泉の国を封印した後に、禊に行ったわけです。
イザナギが禊を行うのは、黄泉の国での穢れを落す意味があったのでしょう。
尚、イザナギは禊の最後で天照大神、月読命、スサノオの三貴士を誕生させる事になります。
因みに、現在でも「禊を払う」や「禊を済ませる」「禊を落す」などの言葉は使われています。
イザナギの禊
イザナギは筑紫国の日向で禊を行ったと伝わっています。
日本神話における筑紫は九州全体を指すとも考えられています。
イザナミは黄泉の国で穢れてしまった体に禊を行う為に、杖、衣服、装飾品を外しました。
この時に、イザナギの身に着けていたものから12の神が誕生しています。
杖・衝立船戸神 | 帯・道之長乳歯神 | 袋・時量師神 |
衣・和豆良比能宇斯能神 | 袴・道俣神 | 冠・飽咋之宇斯能神 |
右の腕環・奥疎神 | 奥津那芸佐毘古神 | 奥津甲斐弁羅神 |
左の腕環・辺疎神 | 辺津那芸佐毘古神 | 辺津甲斐弁羅神 |
これまでのイザナギはイザナミがいなければ神産みが出来ませんでしたが、黄泉の国から帰還したイザナギは一人でも神が誕生させられる様になっていたわけです。
イザナギは禊を行う為に入水をしようとしますが「上のあたりは流れが早すぎる、下のあたりは流れが弱すぎる」と述べて、真ん中あたりから水に入りました。
河の上流、下流ではなく中流を選んだという事です。
イザナギは入水し禊を行うと、二柱が誕生しました。
八十禍津日神 | 大禍津日神 |
八十禍津日神と大禍津日神は黄泉の国の穢れを落した事から誕生した禍々しい神でもあります。
黄泉の国の穢れから誕生した神とも言えます。。
禊を行い黄泉の国の穢れを落した行為は現在で言えば「禊を払う」や「禊を落す」などに該当するのでしょう。
禍々しい神が誕生してしまいましたが、イザナギは禊を続けると、禍々しい神を打ち消すが如く三柱が誕生しました。
神直毘神 | 大直毘神 | 伊豆能売 |
神直毘神、大直毘神、伊豆能売の三柱は禍々しい神を直した神でもあります。
悪い事ばかりではなく、禊により良い神も誕生した事になります。
イザナギは禊を続け水の底で体を清めると二柱が誕生しました。
底津綿津見神 | 底筒之男神 |
イザナギの禊によって誕生した底津綿津見神ですが、過去にイザナギとイザナミの神産みにより誕生したワタツミノカミと同一神とする説もあります。
ワタツミノカミは山幸彦の海幸彦打倒に手を貸し、娘の豊玉姫はウガヤフキアエズを生んでおり皇室とも関係が深いと言えます。
イザナギは水の中ほどで体を漱ぐと二柱が誕生しました。
中津綿津見神 | 中筒之男神 |
イザナギの禊は続き水面で体を清めると再び二柱が産まれる事になります。
上津綿津見神 | 上筒之男神 |
禊により誕生したのは海の神や航海の神であり、縁起の良い神様が誕生したとも言えるでしょう。
ここで登場した中津綿津見神や上津綿津見神もワタツミノカミと同一神であるとか、三柱揃うとワタツミノカミになるなどの説があります。
底筒之男神、中筒之男神、上筒之男神は住吉三神とも呼ばれ神功皇后が祀った話も残っています。
住吉三神は仲哀天皇が崩御した後に、武内宿禰とのやり取りで神功皇后の腹の中にいる応神天皇を後継者にするのがよいと述べた神でもあります。
イザナギは禊の最後に清流で左目を洗うと天照大神が誕生しました。
さらに、右目を洗うと月読命が誕生し、鼻を洗うとスサノオが誕生したわけです。
天照大神、月読命、スサノオの三柱を誕生させたイザナギが喜んだ事は言うまでもありません。
イザナギは禊を済ませた事で、幸運に恵まれたわけです。
古事記には、イザナギの禊の最後に次の様に記載されています。
※古事記より
八十禍津日神から速須佐之男命(スサノオ)まで十神は伊耶那岐(イザナギ)が体を御漱ぎになった事で現れた神である。
禊を終えたイザナギは首飾りを天照大神に与え高天原を任せ、月読命には夜の国を任せ、スサノオには海原を任せています。
スサノオが暴れた事で、イザナギは追放してしまいますが、この後に多賀神社で鎮座する形となり一線からは身を引く事になります。
イザナギは何処で禊を済ませたのか
イザナギは筑紫の日向で禊を行ったと古事記には書かれています。
筑紫は現在の筑前、筑後の事だとも考えられ、日向は宮崎県だと考える事が出来るはずです。
先にも述べた様に、古代日本では九州全体を筑紫と呼んでいた話もあり、禊を行った場所の特定は難しいと言えるでしょう。
日向は現在の宮城県の事であり、イザナギは宮崎県で禊を行ったとも考えられています。
日向で禊を行った理由に関しては、黄泉の国は根の国とも呼ばれている暗い国であり、日が一番当たっている場所で禊を行ったともみる事も出来るはずです。
日向の名前は「日がよくあたる」からと名付けられた説もあります。
イザナギが何処で禊を行ったかですが、正確な場所は分からなくなっています。
尚、イザナギが禊を行った場所は橘の小門の阿波岐原であり、宮崎県宮崎市のみそぎ池だったのではないか?とも考えられています。
他にもイザナギとイザナミが最初に誕生させたオノゴロ島が福岡の能古島であり、小戸大神宮の社伝にはイザナギが禊を行った場所だと伝えています。
神話の時代の事は不明な事が多く後付けの可能性もあり正確な部分は不明です。
禊は水に流すこと??
禊は「水に流す」ことを指すともされています。
つまりは、禊は「水き」であり、古代から日本には水には浄化作用があるとも考えられてきたわけです。
ここから来たのが「水に流す」であり「なかった事にする」という意味で使われる様になりました。
水に流すなどの言葉は古代の宗教観念と繋がっているとも考えられ胸部深い部分です。