天之御中主神(アメノミナカヌシ)は、古事記で最初に出て来る神様です。
天之御中主神が古事記で最初に現れた事から、日本神話の中で最高神だと考える風潮もあります。
しかし、それと同時に古事記の記述でも、現れたと思ったらすぐに隠れてしまい、謎多き神様だと言えるはずです。
実際に天之御中主神は、正確な姿や言動、行動など何一つ分かっている事がありません。
その為、天之御中主神に関しては、空想の産物とする見方もあります。
実際に天之御中主神は、机上の神様だったのではないかと考える人もいる程です。
今回は造化三神及び別天神の筆頭とも言える天之御中主神を解説します。
尚、天之御中主神を祀ってある神社などは、最後に紹介します。
因みに、天照大神が最高神だと思っている人も多いかと思いますが、実際には天之御中主神が最高神だと主張する専門家は多いです。
天之御中主神は同じく造化三神の高御産巣日神、神産巣日神に宇摩志訶備比古遲神と天之常立神を加え、別天津神として分類される事もあります。
古事記における天之御中主神の記述
古事記には、次の記述があります
「天と地が初めて出来た時に、高天原に成り出た神の名は「天之御中主神」、次に「高御産巣日神」、次に「神産巣日神」であった。
この三柱は独神として成りまして、身を隠された」
これが古事記の天地開闢の記述であり、天之御中主神は現れたと思ったら、いきなり消えてしまったわけです。
天之御中主神、高御産巣日神、神産巣日神で造化三神と呼びます。
古事記の後の記述で高御産巣日神、神産巣日神は登場しますが、天之御中主神は一切登場しません。
この事から、天之御中主神は最初に出て来た最高神とされながらも、一切経歴が分からない神様になっています。
天之御中主神は存在が分からない故に、想像を働かせる部分が大きいと言えます。
尚、独神は男性女性の性別を持たない神の事を指します。
日本神話の最高神
天之御中主神は日本神話の最高神として見られる事が多いです。
多くの書籍などでも、「世界の始まりの神」「天の中心を統べる神」「天の偉大なる支配者」「宇宙の神」などと評されています。
実際に天之御中主神は、宇宙の始まりであるビッグバンを、表しているなどの説も人気がある状態です。
宇宙に関する天之御中主神の呼び方で言えば、「宇宙の根源の神」「宇宙の支配者」「宇宙の原始神」とも言われています。
ただし、古事記には天之御中主神が宇宙の神だとは記載がなく、あくまでも想像の産物とも言えそうです。
天之御中主神はエネルギーが集まる場所だった!?
天之御中主神はエネルギーが、集約される場所だとする説があります。
造化三神の中の高御産巣日神、神産巣日神の最初の部分を読むと「たかみ」と「かみ)となっています。
つまり、高御産巣日神の「たかみ(高)」は高い所を指し天を指すとも考えたわけです。
それに対し神産巣日神は「かみ(神」は「下」を指し、地上と指すと考えられます。
天(宇宙)と地(地上)で発生したエネルギーを受ける場所が必要であり、それが真中である天之御中主神だと言うのです。
日本神話などを見るとイザナギが黄泉の国から帰還した後に、川の上流や下流を避けて真中付近で禊を行った話があります。
イザナギが真中を選択した様に、日本の神話には真中を選択する事が多く、中心の神として天之御中主神が存在したとする説もあります。
ただし、天之御中主神は最初は存在せず、高御産巣日神、神産巣日神がいただけだとする話しもある状態です。
祀られない神から祀られる神へ
祀られない神
天之御中主神ですが、最高神にも関わらず古代は祀られていなかった話があります。
平安時代に書かれた延喜式神名帳に、天之御中主神が祀られている神社の記載がありません。
延喜式神名帳に記録がない事から、少なくとも平安時代より前には、天之御中主神が祀られていなかったのではないか?とも考えられるわけです。
さらに言えば、天之御中主神が信仰されていた形跡すらないと指摘する人もいます。
天之御中主神は古事記の記述でも抽象的な存在であり、現実離れし過ぎた為に祀られなかったのではないか?とも考えられています。
専門家の中には、記紀を編纂する段階で道教の「三」「五」「七」を取り入れた事から、天之御中主神が誕生したという方もいます。
先に述べた様に、元は高御産巣日神、神産巣日神だけでしたが、縁起がよい「三神」にする為に、無理やり天之御中主神を創造したとする考えです。
この考えが正しければ、天之御中主神は机上の神様となり、祀る人がいないのも当然だと言えるでしょう。
尚、三貴士は天照大神とスサノオ、ツクヨミですが、元は天照大神とスサノオだけでしたが、縁起の良い「三」を作り出す為に、無理やりツクヨミを入れたとする説もあります。
ツクヨミも名前くらいしか登場しませんが、天之御中主神と同様に机上の神様とする見方も存在します。
祀られる神へ
鎌倉時代になると状況が一変します。
伊勢神宮の神職である度会氏により、豊受大神が天之御中主神や国之常立神と同一であるとみなした為です。
これにより、天之御中主神は一気に全知全能の神とも言える存在となりました。
祀られない神様から、祀られる神になった瞬間とも言えるでしょう。
後の時代になると、天之御中主神は天の中心とあり、北極星、北斗七星などの北辰信仰と結びつき、明治時代の神仏分離では妙見菩薩と同じと考えられる様になります。
妙見菩薩が祀られる神社で、天之御中主神も祀られる様になったわけです。
それにより、神社の名前が妙見宮から八代神社に変わったりもしています。
例を出すと千葉神社は過去には、千葉妙見宮と呼ばれていましたが、神仏習合により名前が変わったともいえるでしょう。
天之御中主神が祀られている神社
サムハラ神社
造化三神が祀られている神社として有名なのがサムハラ神社です。
余談ですが、サムハラ神社のお守りは非常に人気があり、入手困難との話もあります。
古事記で最初に現れた造化三神が祀られているサムハラ神社には一生に一回は行きたいと感じている人も多い様に思います。
久留米水天宮
久留米水天宮は全国にある水天宮の総本山です。
所在地は福岡の久留米市となり、分社は20カ所を超えます。
久留米水天宮は平家に仕えていた按察使局伊勢なる女性が、創建したと伝わっています。
平家は壇ノ浦の戦いで滅亡しましたが、その時に崩御した安徳天皇や平家一門の霊を弔う為に久留米水天宮が出来たと言われています。
安産祈願などで人気であり、訪れる人も多いと言えます。
天之御中主神だけではなく、安徳天皇や二位の尼、高倉平中宮が祀られています。
天之御中主神や安徳天皇は一緒に祀られる事も多いです。
東京水天宮
先に紹介した総本山の久留米水天宮の分社となるのが、東京水天宮です。
しかし、分社したのは比較的新しく、江戸時代・1818年に久留米水天宮から御祭神の分霊をしました。
東京水天宮は平成28年に改装も行われ、神殿は新しい状態となっています。
東京水天宮は天之御中主神を祀り、安産祈願に訪れる方も多いです。
有料ですが、東京水天宮には駐車場もあります。
水天宮平沼神社
水天宮平沼神社は安産や水の神様として親しまれています。
水天宮平沼神社では、天之御中主神だけではなく安徳天皇も御祭神となっています。
安徳天皇は入水し崩御した事から、水の神様として祀られるのでしょう。
神戸水天宮
神戸水宮は小授けや安産の祈願で人気です。
地域の人々からは「水天宮さん」の名前で親しまれている話があります。
神戸水宮は天之御中主神だけではなく、安徳天皇、高倉平中宮、平二位時子などが御祭神となっています。
東京大神宮
東京大神宮は明治13年に創建された神社です。
伊勢神宮の神様も祀っており「東京のお伊勢様」の名前で親しまれています。
東京大神宮にも天之御中主神は迎えられ祀られてはいますが、近代に入ってからの神社だと言えます。
尚、東京大神宮には天之御中主神の他にも、高御産巣日神、神産巣日神など造化三神の神々が祀られています。
四柱神社
四柱神社は長野県松本市にある神社です。
天之御中主神だけではなく、同じく造化三神の高御産巣日神、神産巣日神も祀り、さらには天照大神までもが祀られている神社となります。
四柱神社は神話の中でも、主役級の神々が祀られており、全ての願いが成就されるとも言われています。
四柱神社の近くには、国宝松本城もあり合わせて観光する事も可能です。
八代神社
八代神社(やつしろじんじゃ)は、妙見系の神社であり、日本三大妙見の一つです。
妙見神社の始まりは、飛鳥時代だとされ1300年を超える古い歴史があるとされています。
明治時代に妙見宮から八代神社に名前が変わりました。
現在でも、地元の人々からは「妙見さん」と呼ばれている話もあります。
八代神社には天下泰平、五穀豊穣、商売繁盛、厄除けなどのご利益があると考えられています。
天之御中主神だけではなく、日本書紀で最初に登場する神である国之常立神も一緒に祀られている状態です。
妙見祭も行われ国の重要無形文化財にも指定されています。
千葉神社
千葉神社も妙見系の神社であり、天之御中主神が祀られており、全ての方角に厄災から守る力が働いているとも考えられています。
また千葉神社は男女を巡り合わせ、結びつける力もあると言われ、婚姻に関わる儀式も行われています。
神前結婚も行われている事から、子供用のスペースなども充実しています。
秩父神社
秩父神社は妙見系の神社で、関東で有名なパワースポットでもあります。
秩父神社の歴史は古く紀元前87年に、創建されたとする記述まである程です。
秩父神社の御祭神は天之御中主神だけではなく、八意思兼命、知知夫彦命、秩父宮雍仁親王も祀られています。
秩父神社の主催神である八意思兼命は、知恵の神様でもあり受験の合格祈願にも訪れる場所でもあります。
尚、八意思兼命は造化三神の高御産巣日神の子であり、天岩戸に隠れた天照大神を岩戸から出す為の知恵を出した神様でもあります。
相馬中村神社
相馬中村神社も妙見系の神社です。
相馬中村神社は、千年を超える歴史ある神社でもあります。
平将門が下総国猿島郡に妙見社を建立し、戦勝祈願などを行った事が始りと伝わっています。
相馬野馬追の神事でも有名であり、行事が催されています。
明治時代の神仏分離により、神社の名前が相馬中村神社に代わり、天之御中主神が主神となりました。
相馬中村神社には健康長寿などの御利益があると言われています。