名前 | 機織女(はたおりめ) |
別名 | 天服織女(あめのはたおりめ) |
稚日女尊(わかひるめのみこと) | |
時代 | 神代 |
登場 | 古事記、日本書紀 |
コメント | スサノオの狼藉により亡くなった悲劇の女神 |
機織女は高天原に暮らし、神が着る衣服を織る仕事をしていた女神です。
スサノオが高天原にやって来ると、様々な悪さを始め、スサノオの悪戯により機織女が亡くなる事態に発展しています。
機織女の死は天照大神にとっては衝撃であり、天照大神は心に傷を負い天岩戸に引き籠ってしまいました。
それを考えると、機織女の死は一つのターニングポイントとなるでしょう。
因みに、日本神話の世界では時として、亡くなった神が生き返る事があります。
大国主が八十神に殺害され、造化三神の神産巣日神により、派遣されたサガイヒメ・ウムギヒメが大国主を生き返らせています。
大国主が八十神に再度やられた時は、母親のサシクニワカヒメが生き返らせました。
しかし、残念ながら機織女が亡くなり復活した話は伝わっていません。
機織女が不慮の事故で死亡した事を考えると「あんまりだ」となる様にも感じています。
尚、スサノオの狼藉で怪我をしたのは機織女ではなく、天照大神だった説もあり、合わせて解説します。
スサノオの狼藉
スサノオは天照大神、月読命と並ぶ三貴士の一人ですが、イザナギの命令を聞かなかった事で追放されてしまいました。
追放されたスサノオは高天原にやってきて、天照大神と身の潔白を証明する為に誓約を行います。
誓約が成功し、宗像三女神や五柱の男神を誕生させた事で、スサノオは高天原に残る事になったわけです。
しかし、調子に乗ったスサノオは天照大神の田を破壊し、神殿に大便をするなどやりたい放題となります。
神々はスサノオを処罰する様に、天照大神に求めますが、天照大神はスサノオを庇い罰する事はありませんでした。
天照大神がスサノオを罰しなかった事で、最大の被害を被ったのが、機織女となるでしょう。
機織女は真面目に働く女神だった様に感じますが、不慮の事故で命を落とす事になります。
ホトの怪我で亡くなる
天照大神と機織女は、機織り小屋で神衣を織っていました。
この時に、スサノオは天馬の尻の方から皮を剥ぎ、よからぬ事を企んでいたわけです。
スサノオは天照大神と機織女がいる機織り小屋に穴を開け、皮を剥いだ馬を投げ入れます。
機織女は集中して機織りをしていたはであり、皮を剥がされた馬が突然現れた事で、驚き飛びあがってしまい、機織り機に陰部を打ち付けて亡くなってしまいました。
古事記では女性の陰部の事を「ホト」という名前で、現わしています。
先に述べましたが、機織女の死は天照大神がスサノオが最初に狼藉を働いた時に、排除していれば防げたはずです。
天照大神としては、機織女の死はかなり、こたえたはずです。
余談ですが、イザナギと共にオノゴロ島を造り国生み、神産みを行ったイザナミもヒノカグツチを生んだ時に、「ホト」に傷を負い亡くなってしまいました。
女性器が傷つき亡くなってしまうのは、何かしらの思想を現わしているのかも知れません。
ただし、日本書紀で稚日女尊が登場し、稚日女尊は機織女と同一神だとも考えられています。
神功皇后が忍熊王との決戦を前に稚日女尊が海上五十狭茅により生田神社で祀られた話があります。
それを考えると、機織女がここで完全に死亡したわけでもなさそうです。
生田神社 | 神戸市中央区下山手通1丁目2-1 | 電話:078-321-3851 |
天照大神と天岩戸
機織女が亡くなってしまった事で、天照大神は責任を感じてしまったのでしょう。
天照大神は天の岩戸に引き籠る事になります。
これにより、世界は太陽を失い魑魅魍魎の輩が動き出すなど、荒廃していきます。
これを考えると、天照大神にとって機織女の存在は大きかったのかも知れません。
ただし、別説として天照大神が一番ショックを受けたのは、機織女の死ではなく神聖なる馬の皮が剝がされてしまった事だとする説もある様です。
尚、天岩戸に入った天照大神ですが、思金神やアメノウズメなどの活躍もあり、天岩戸から無理やり外に出された話があります。
機織女が亡くなる原因となったスサノオですが、髭や手足の爪を切られて高天原を追放される事になります。
スサノオも機織女が亡くなった事でショックを受けたのか、出雲に舞い降りてからはクシナダヒメを守り八岐大蛇を退治するなどの英雄となっています。
機織女の死は、天照大神だけではなく、スサノオにとってもターニングポイントだったのかも知れません。
機織女の死を最後に、スサノオが狼藉を行った記録は無くなります。
怪我をしたのは天照大神だった!?
古事記の話では機織女が怪我をして亡くなった事になっていますが、実際に怪我をしたのは天照大神だったのではないか?とする説もあります。
この話には異伝があり、日本書紀でも幾つかのパターンが掲載されています。
その中では、怪我をしたのが天照大神だったと考えられるものが存在するわけです。
天照大神が大事な部分を怪我したとする、最高神らしからぬ話も存在します。
天照大神はスサノオと誓約を行い宗像三女神とアメノオシホミミ 、アメノホヒ、 アマツヒコネ 、イクツヒコネ 、クマノクスビら五柱の男神を生んでいます。
しかし、それ以降の天照大神は子を一切生んでいませんし、男女の交わりであるまぐわいを行った話もありません。
それを考えると、女性器を傷つけてしまったのは、天照大神であり、古事記では「天皇家に繋がる最高神を辱めるわけにはいかない」と判断し、機織女を代役とした説です。
あくまで神代の神話の話であり、どこまでが真実なのかは不明ですが、様々な説があるという事なのでしょう。