名前 | 神産み(かみうみ) |
時代 | 日本神話 |
コメント | 神が神を産む事を指す |
神産みとは神が神を産む事を指します。
一見すると当たり前の様に思うかも知れませんが、古事記や日本書紀などの天地開闢の話を見ると、何もない所から神が成り出てきたわけです。
つまり、日本神話の最初の頃は神が神を産んだわけではなく、無から神が誕生した事になります。
造化三神、別天神、神世七代の神は全て、何もない所から出て来て隠れてしまいました。
それに対し、イザナギとイザナミはまぐわいを行い神を誕生させているわけです。
神産みとは、ある意味、神が人間らしく子を産む事にも繋がります。
尚、日本神話を見ると天照大神とスサノオが誓約により、アメノオシホミミや宗像三女神を誕生させています。
誓約がどの様なものなのかはイマイチ不明な部分もありますが、天照大神とスサノオの誓約は神産みに数えられる事は少ないと言えます。
誓約は神が産まれたというよりも成り出てきたとも考えられる為でしょう。
ただし、スサノオが後に地上に降り立つと八岐大蛇を倒しクシナダヒメと結ばれています。
スサノオとクシナダヒメはまぐわいを行い八島士奴美神を誕生させており、こちらは神産みだと言えるでしょう。
ここではイザナギとイザナミの神産みにスポットを当てて解説します。
因みに、日本の神々は八百万の神とも呼ばれ非常に多くいますが、神産みにも原点として見る事が出来ます。
神々の誕生
古事記では天之御中主神、日本書紀では国之常立神が最初に誕生した神となります。
天之御中主神と国之常立神を見ると、天地開闢の時に何もない所から現れて出てきたわけであり、父神や母神がいたわけではありません。
天之御中主神や国之常立神らは独神であり、男女の性別もない神です。
神世七代の途中から男神と女神が登場し、最後にイザナギとイザナミが登場しました。
イザナギとイザナミも何もない所から誕生したのであり、神によって産み出されたわけではありません。
尚、造化三神や別天神、神世七代の神々は何もない所から出てきたわけですが、高御産巣日神には思金神という子がいたり、神産巣日神にはスクナビコナという子が存在します。
自分は無から誕生したにも関わらず、神産みを行ったのか子がいる設定となっています。
神産みというパラダイムシフト
イザナギとイザナミは天沼矛を神々から預けられ、天浮橋から地上を掻き混ぜオノゴロ島を造り出す事に成功しました。
イザナギとイザナミはヒルコとアハシマという失敗はしましたが、国生みを行い日本列島を誕生させています。
日本の国土が誕生した後に、イザナギとイザナミはまぐわいを行うと、大事忍男神が生まれ、これが最初の神産みとなります。
ここからイザナギとイザナミは様々な神を誕生させました。
神世七代の神々は何も存在しない所から突然あらわれましたが、イザナギとイザナミ以降は神が神を産むという事が可能となります。
イザナギとイザナミの神産みの話は、日本神話におけるパラダイムシフトだったと言えるでしょう。
初期のイザナギとイザナミを見ると、男神と女神のまぐわいを行わなければ、神産みをする事が出来ませんでした。
尚、男女の神が結婚して子供を形成していく神話の事を「世界両親型」と呼びます。
日本神話においてもイザナギとイザナミは心を一つにして子を誕生させており、世界両親型の神話となります。
神産みで誕生した神
家宅六神
イザナギとイザナミの最初の子は大事忍男神でしたが、次に家宅六神を産む事になります。
家宅六神は下記の通りです。
石土毘古神 | 石巣比売神 | 大戸日別神 |
天之吹男神 | 大屋毘古神 | 風木津別之忍男神 |
日本が誕生したのであれば、最初に山や川の神が誕生してもよさそうな気もしますが、古事記では住居に関わる神が最初に誕生した事になっています。
因みに、世界の神話では住居の神よりも先に、山や川などの神が誕生するのが一般的です。
海の神ワタツミ
家宅六神の次に誕生した神がワタツミであり、海の神となります。
ワタツミは日向三代の話で山幸彦を助け海幸彦打倒に手を貸した神でもあります。
尚、住居の神である家宅六神の次に海の神が誕生している事から、日本人が最初に住居を定めたのは海辺だったのではないか?ともされているわけです。
孫が出来る
イザナギとイザナミの神産みは続き、ハヤアキツヒコとハヤアキツヒメを誕生させました。
ハヤアキツヒコ・ハヤアキツヒメの二柱は結婚し、水面の神、分水嶺の神、灌漑の神など下記の八柱を産みました。
沫那藝神 | 沫那美神 |
頬那藝神 | 頬那美神 |
天之水分神 | 国之水分神 |
天之久比奢母智神 | 国之久比奢母智神 |
イザナギとイザナミの子であるハヤアキツヒコとハヤアキツヒメまでが、神産みを行いイザナギとイザナミには一気に孫まで出来てしまったと言えるでしょう。
子供同士が結婚するのは普通で考えれば、タブーに感じるかも知れませんが、神は人間を超越した存在だと考えた方がよいのかも知れません。
それでも、水に関わる神が最初に生まれたのは、日本人が海洋民族だとする現れと見る事も出来るはずです。
尚、ここで灌漑の神が生まれたのは、灌漑工事が日本で出来る事になったとする現れとも考えられています。
世界を見ると治水工事は重要であり、中国では夏王朝の始祖である禹は灌漑工事の成功で帝位に就いています。
メソポタミア文明やエジプト文明も治水工事は密接に関わっているのは興味深い所です。
自然の神が誕生
イザナギとイザナミの神産みは継続され、風の神、木の神、山の神、野の神が誕生する事になります。
下記の四柱が誕生しました。
志那都比古神 | 久久能智神 |
大山津見神 | 鹿屋野比売神 |
ここで山の神である大山津見神と野の神である鹿屋野比売神が結婚し、神産みを行い下記の神々を誕生させています。
天之狭土神 | 国之狭土神 |
天之狭霧神 | 国之狭霧神 |
天之闇戸神 | 国之闇戸神 |
大戸惑子神 | 大戸惑女神 |
大山津見神と鹿屋野比売神の神産みにより、男女ペアの神である山野の土の神、山野の霧の神、谷間の神らが生まれました。
神産みは続く
これまでに多くの神が誕生しますが、イザナギとイザナミの神産みは続きました。
イザナギとイザナミは鳥之石楠船神を誕生させる事になります。
鳥之石楠船神には「船」の文字が入っており、造船技術が生まれたとする解釈もあります。
さらに、オオゲツヒメも誕生させました。
オオゲツヒメは食物の女神であり、後にスサノオに斬られた神としても有名です。
尚、オオゲツヒメは国生みにおいて大宜都比売が阿波国の別名であり、四国の一人であるはずですが、何故か神産みでも名前が挙がっています。
一つの説としてオオゲツヒメらしき人物が二度登場する国生みと神産みの話は、古事記編集者のミスだったのではないか?とも考えられています。
イザナギとイザナミは、ここまでに多くの神々を誕生させており、文明を定着させ稲作文化を育んだ事を指すのではないかと考える専門家もいます。
イザナギとイザナミの神産みにより日本列島が自然豊かな国となり、文明も定着したと考える事が出来るはずです。
ヒノカグツチ
イザナミは火の神であるヒノカグツチを産んだ時に、女陰を焼かれ怪我をして病に伏せる事になります。
順調に神産みをしていたイザナギとイザナミですが、ここで挫折を味わう事になります。
イザナミは重傷を負ってしまい体調は悪化しました。
ここが神産みにおけるターニングポイントでもあります。
産める神に変わる
イザナミの死
イザナミは重体となり垂れ流し状態となってしまいました。
この時にイザナミの汚物から、下記の六柱が誕生する事になります。
金山毘古神 | 金山毘売神 |
波邇夜須毘古神 | 波邇夜須毘売神 |
彌都波能売神 | 和久産巣日神 |
イザナミは自らの汚物から鉱山の神、粘土の神、食物の神らを誕生させました。
これまでのイザナミはイザナギとまぐわいを行わなければ、神を誕生させる事が出来ませんでしたが、死の間際になると自分一人でも神が産めるようになったわけです。
何故、一人でも神産みが出来る様になったのかは不明ですが、死の間際となったイザナミに不思議な力が備わったと見る事も出来ます。
イザナギはイザナミを懸命に看病しますが、結局は亡くなってしまいました。
日本神話における最初の死亡者がイザナミとなります。
古事記にはイザナギとイザナミは国生みと神産みで14の島と35の神を誕生させたと書かれています。
しかし、数えてみれば分かりますが、どうしても数が合わない事になります。
泣沢女神
イザナギはイザナミの死に涙を流すと、泣沢女神が誕生しました。
ここにおいて、イザナギもまぐわいを行わなくても神が産めるようになったわけです。
この後に、イザナギが自分の力で神を産めるようになったのは、黄泉の国から帰還し禊を行った時まで待たねばなりません。
しかし、この時にイザナギにはイザナミの死という試練が訪れており、試練を前にして覚醒の予兆が見てとれるとも感じました。
イザナギも一人でも産める神へと変貌していく事になります。
ヒノカグツチの最後
イザナギはイザナミの命を奪ったヒノカグツチを許す事が出来ず、手に持った天之尾羽張で斬り捨てています。
ヒノカグツチの血から下記の神が誕生しました。
石折神 | 根折神 |
石筒之男神 | 甕速日神 |
樋速日神 | 建御雷之男神 |
闇淤加美神 | 闇御津羽神 |
ヒノカグツチの斬られた胴体からは下記の八柱が誕生しています。
正鹿山津見神 | 淤縢山津見神 |
奥山津見神 | 闇山津見神 |
志藝山津見神 | 羽山津見神 |
原山津見神 | 戸山津見神 |
見方を変えればヒノカグツチも最後に神産みを成功させたとも言えます。
黄泉の国
イザナギはイザナミを忘れる事が出来ず、黄泉の国に迎えに行きました。
イザナミはイザナギに「見ないで」と言われたのに見てしまいます。
この時にイザナミの体は腐敗し8柱の雷神がうごめいていました。
この雷神は、イザナミが産んだのか、何処からともなくやってきてイザナミに取り着いたのかは不明です。
イザナギは黄泉醜女に追いかけながらも、黄泉比良坂を超えて地上に出ます。
イザナギは黄泉の国の入り口を千引の岩で塞ぎイザナミと決別しました。
禊
ここでも、イザナギが禊を行うと体から様々な神が産まれました。
八十禍津日神 | 大禍津日神 | 神直毘神 |
大直毘神 | 伊豆能売 | 底津綿津見神 |
底筒之男神 | 中津綿津見神 | 中筒之男神 |
上津綿津見神 | 上筒之男神 |
さらに、イザナギが顔を洗うと、三貴士が生まれました。
三貴士がイザナギの最後の神産みとなります。
黄泉の国から帰還したイザナギはイザナミの死を乗り越え成長があったのか、自分一人でも神が産めるようになっていたわけです。
イザナギは天照大神に高天原を任せ、月読命には夜の国、須佐之男には海原を任せました。
しかし、須佐之男はイザナギのいう事を聞かず、追放されています。
イザナギは引退し天照大神を中心に日本神話は進んで行く事になります。